沼田まほかるの「猫鳴り」は、一匹の猫をめぐる連作短編集。


第一部の主人公は、子供を流産した中年女性だ。彼女がこの猫を拾う。淡白な女性で、いやいや猫を飼うことになる。猫を飼うことで子供を失った寂しさが救われるかというと、別にそういうわけでもない。

第二部の主人公は中学生の男の子。母親が逃げ出したという父子家庭育ち。元気のないような少年で引きこもり傾向。この少年の周りをこの猫がうろうろするのだけれど、別にこの事で少年がとりたてて救われるわけでもない。

第三部の主人公は、妻に先立たれた老人。この猫と一人と一匹暮らし。最後に猫は死ぬのだけれど、このことで老人が救われるかというと、別にそういうことでもない。

はっきり言ってしまうと、それぞれの主人公は、子供を持たない中年女性、母親のいない少年、妻のいない老いた男、となる。状況は厳しい。強く生きた結果であればそれも問題もないのだけれど、世の中強い人ばかりでもないから。

そしてこの小説の全体にほんのりとした絶望感が漂う。

第二部で中学生の息子に父親がこのように言う。

「あのなあ、行雄、大人は普通そういうのを絶望って言うんだ。知らなかったのか? お前、折り合いなんて、たぶん一生つかないぞ」

ところがかたわらにいる猫は、母親もなく子供も持たずパートナーもなく、淡々と生き淡々と死んでいく。

この「猫鳴り」という小説は、現代の軽い絶望感を表現してすばらしいものがある。



amazon.co.jpで確認


関連記事